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虐殺器官

novel

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃

早川書房 2010-02-10
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 何かここで小説の感想書くのって、ずいぶん久しぶりな気が(^_^;
 そもそもこの本はWebで見て知ったんだと思うんですが、わたし、それをどこで読んだのか、その記事がどんな物だったのか、まるで覚えていないんです(^_^; 買うときにもいつもならかなり考えてから買うんですが、この本は見にいったら平台に積まれてて、そのとき即購入したんですが、こういう行動パターンもわたしにしては珍しいっちゃあ珍しい。
 で、内容について何ですが、タイトルだけだとバイオレンスかとも思いかねませんが、ほぼ純粋SFと言ってもいい、かなり硬派なSFです。硬派すぎるんでサスペンスとしても評価されているようですが。確かに近未来サスペンスと言えなくもない作品です。
 ストーリーは近未来、管理社会が実現した世界で、各地で大量虐殺が行われるたびに見え隠れする謎のアメリカ人、ジョン・ポールを追う米軍大尉クラヴィス・シェパードを通して、この世界のゆがみを見つめていく。と同時に現実世界のわたし達にとっても身近な問題にも迫っているという、意欲的な内容になっています。
 前半、やや取っつきにくい印象がありました。一人称で物語を書く際に時折あることなんですが、主人公をどのように自然に自己紹介させるか、というのは、実は結構難しい問題なんですよね。ある程度、他の文とは文体が変わってしまうことを諦めた上で普通に自己紹介させるか、あるいは自然に物語の展開で紹介させるのに任せるか。前者だと早い段階で主人公像が読者の中に確立できますが、その自己紹介の部分だけ若干浮いてしまう可能性がある。一方後者の場合では主人公像が確立しないため、冒頭などではやや読みにくくなる恐れがあるものの、作品全体としてみた場合には一貫性が取れて、完成度としてはこちらの方が上となるかも知れない。一長一短ありますし、わたしは怖いんで、ほとんどの場合前者の手法をとってしまいますが、この作品は後者を取っています。そのせいでプロローグ部分などはややわかりにくくなってしまってますが、それを補ってあまりあるほどのリアリティがあふれています。
 この本を読みながら、わたしは妬ましい気持ちに襲われていました。実はわたし自身も戦争を題材にした、それもSFでなおかつリアリティのある戦争を書こうと思っていた矢先だったので、この小説の完成度は衝撃であると同時に妬ましかった。この人はこれだけの作品を書いて、そのうえわたしより年下なんですよね。ただ年下と言うだけではない。この作者は実質3年ほどしか小説を書いていないんです。それでこの才能。比較するほうがどうかしてると言われそうですが、それでもやっぱり妬ましい。
 ただ妬ましいだけではありません。実はこの作者はすでに他界しているのです。言葉は悪いのですが、いわば「勝ち逃げ」をしているようなものなんです。この事実がわたしをどうにも打ちのめしてしまいます。いつか、この作品を超えるような物語を。そう思いながら読み終えました。