文章の説得力

 まずは何も言わずにこのリンク先を読んでほしい。先に言っとくと長い。かなり長い。全部読む必要はないんだけど、最低1サイト位は目を通してもらえると以下のわたしの言うことが理解しやすいかと。
 うちの母ちゃん凄いぞ
 さて。
 これは当然ながら小説ではない。創作の可能性は否定しないが(たぶん違うと思う)、小説だとしたら、これはろくに長文を書いたこともない人だと思う。
 読みにくい文章に、主人公(という言い方も変だけど)に感情移入しづらい内容と、とにかく粗が目立つ。
 けど、このスレッドで描かれている物語は皆さんの脳裏に浮かぶのではないだろうか。
 物語と書くと語弊があるかもしれないが、ここで問題にしているのは文章の表現力、説得力であって、この文章が事実か否かはここでは重要ではないので、スルーします。
 結論から言ってしまうと、物語の説得力なんて、文章の技術は絶対条件ではない、ということ。あればそりゃいいけど、なくても読者を納得させるだけの説得力を持たせることはできる。
 わたしは以前、キリスト教の日曜礼拝にちょくちょく顔を出していました。ある日の牧師先生の説教で、一枚の紙が配られたんです。それはとある在日外国人の女性が家族に当てて書いた手紙を翻訳したものでした。
 その女性はおそらくそれほど教養もなかったのでしょう。手紙は翻訳の補正がかかっているとはいえ、かなり支離滅裂な内容でした。手紙の前半と後半で言ってることが逆になってたりと、書いた状況もわずかな時間を見つけてあわてて書いたように感じられるものでした。
 でも、その手紙(を翻訳したもの)を読んだとき、わたしは感動に近い衝撃を受けました。大げさなと思われるかもしれませんが、いまだにあれ以上の文章に出会ったことはありません。
 その女性がどんな気持ちでこの手紙を書いたのか、この文を選ぶにあたって、どんな心の葛藤があったのか、手に取るように感じれられたんです。
 それはつまるところ、物語の後ろに広がっている世界が、どれほどのリアリティを持っているかにかかってくる問題なのではないかと思います。
 ここで冒頭のリンク先のことに戻りますと、同じようなことがいえると思うんです。さすがに内容が内容だし、書き方もあれなんで(^^;、感動とまではいきませんが、ここに書かれていることが本当かもしれないと思わせるくらいの説得力はあると思うんです。
 小説を書くときにバックグラウンドを設定することは、とくにSFやファンタジー系ではよくありますが、これをいかに荒唐無稽なものではなく、一つの世界として説得力を持ったものにするかは、小説家の力量にかかってきます。森岡浩之氏の「星界」のシリーズは、そのあたりでかなり成功している一つだと思いますが、誰もがこれほどの世界観を設定できるわけではありません。
 じゃあどうすれば物語に説得力を持たせられるんだ? ということになりますが、そんなのわかったらわたしが教えてほしいくらいです(^^; でも、特にSFやファンタジーを書くときには勢いだけではなく、その背後に何かあるのか、自分の中とゆっくり対話してから書くというものいいのではないでしょうか。

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